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着物の紋様について *解説と研究*

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【紋様解説】

吉祥紋様

1)龍
古今東西多くの想像生物ある中で龍ほどポピュラ-な聖獣も又とないでしょう。東洋にあっては龍・ナーガ・おろちなど。西洋ではドラゴン・バジリスク・サラマンダーなど、神話から風俗祭祀に至るまで生活に深く根差した存在と言えます。BC6000にも遡ると言われる中国浙江省余姚県の河姆渡遺跡出土の象牙の文様には、既に稲作を裏打ちするべき太陽信仰の兆しとしての双頭の雄鶏の図が見られ、龍図の原型と思われます。

仰韶時期に入ると更に龍らしき紋様が顕著となり、漢代に入り有名な長沙馬王堆第一漢墓の帛画には見事な龍画が描かれているのであって、司馬遷著・史記冒頭に高祖劉邦は龍顔であった旨の著述にも頷ける訳で、龍の母国中国龍信仰の歴史の奥深さに感銘を受けます。

西洋の龍はジークフリートやゲオルギウスに退治される悪者としての存在ですが、東洋にあっては水神であり、もはや神の眷属です。須佐乃袁尊に退治される八岐大蛇は悪者というよりは天が須佐乃袁を試したのであって、大蛇は死んで大河となり出雲の地を潤した(治水の意)とされます。尾より草薙剣出るの伝説は、武器造りによい砂鉄産出の意とも。

中国に広がる広大なゴビの砂漠からは、大量の恐竜の化石が出土し、その骨格に触れた古代人の想像力は、龍を想起連想したかもしれません。ラーメン丼ぶりの模様で有名な「雷紋」は周代の龍紋(渦巻き紋様)で、それから古代饕餮紋様が発生し龍紋様を生み出したの説もあり、龍にまつわる諸説学説には枚挙に暇がありません。

中国南宋画に陳容の九龍図が有名ですが、本邦でも友松・等伯・応挙・宗達らに水墨龍図の傑作があり、我国王家古墳に描かれた四神としての龍・・季節の先駆けである春を司り、日乃本東方を守護し神通に依り国家守護安寧を図り、水神として五穀豊穣を約束し、八方に睨みを利かせて護国鎮護の象徴的存在である処・・の他にも、端午の節句・鯉のぼり風習、龍神伝説、全国数多の龍神祭、十二支の辰、ドラゴンボールのシンロン、中日ドラゴンズのシャオロン・・などなど、昨今龍がいかに身近な存在であるかが伺われます。

〈付記〉
☆竜について・・・
竜とは、もともと古代中国の神獣であり、BC6000年頃の揚子江流域からの出土品に既に竜らしき文様が認められます。欧州及びオリエント神話とキリスト教のドラゴン・ヴァジリスク類、又古代インド仏典に登場するナーガ族・ムチャリンダ、中南米のケツァルコアトル、延いては本邦古事記由来のスサノオ神を悩ませた八岐大蛇なども竜の眷属と考えれば、太古の古えより汎世界的に生息していたであろう、人類歴史上の一大聖獣です。
もとより中国にあっては、その神秘且つ超絶的霊力により、代々王家との結びつきが強く、司馬遷の史記・高祖本紀に、漢の祖・劉邦は竜顔であったというような記述に始まり、五本の指爪を持つ竜の意匠は、その王権の尽きる清朝に至るまでの永きに亘り、王とその一族乃至は王のみが着用の権を専らにし得るという、権威の象徴そのものであったのです。
竜の形態に九似説があります。角は鹿。頭は駱駝。眼は鬼(一説に兎)。項は蛇。腹は蛟。鱗は鯉。爪は鷹。手は虎。耳は牛。全て強い力と知恵、邪に立ち向かう勇気と生活に富を与える象徴です。
又信仰に於いては、朱雀(南方守護・夏・朱)、白虎(西方守護・秋・白)、玄武(北方守護・冬・黒)と共に、四季の春を司り東方を守護する青き神・・青竜として、四神の一隅を占めています(ちなみに青春・朱夏・白秋・玄冬という言葉の語源にもなっています)。
我が国でも竜の八方睨みなどと称し、あらゆる邪を征して一族の安泰と繁栄とをもたらす神的な力の象徴として、又超俗的な富貴を堪能し得る恰好な画題として床の間を飾る軸等に多く描かれるなど、その存在は厳かにして尚且つ大変身近なものとなっていると言えましょう。

後藤友禅染色工房 龍王図友禅染額絵

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2)麒麟
古代中国の聖獣伝説に麒麟は祥瑞現れんとする折に出ずとあります。古くは孔子述作の魯国書「春秋」中に獲麟(麒麟捕獲の意)の語が見られます。三国志正史には曹丕、又司馬炎禅譲の際出現との記録があります。真偽はさて置き、瑞象・守護・昇仙の象徴と言えます。

一説に麒麟は一角にして鹿に似たりとあり、牡鹿の雄姿がその原型である事は論を待ちません。麗は角を冠した牡鹿の象形とも言われる由縁です。又麒即是雄麟即是雌。麒麟にて雌雄を現す、とも。

本邦では正倉院所蔵の雲中麒麟図が有名ですが、これには角が省略されているように見えます。日光東照宮の陽明門を飾る麒麟は二角のものもあり、同じ有蹄類でも偶蹄目、奇蹄目どちらに入れるか・・等々、描くに労多きが故にロマンを掻き立てられる神獣ではあります。日本橋の麒麟像、キリンビールのロゴ・マークが有名。

後藤友禅染色工房 吉祥紋様図全通袋帯の内・麒麟図部分

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3)鳳凰

原初より人類のライフ・リズムが太陽運行に支配されていた時代、鳥の生態行動が重要なファクターでした。世界各地に伝承される霊鳥思想がそのことを如実に物語っています。
鳥は空を飛ぶもの、という事実は、その上に広がるであろう天、即ち神との橋渡しを約束します。やがて魂を天に導くものとして尊重重用され、延いては出産・葬送・疾病平癒など、人の生老病死一切に関わる吉凶禍福の示唆予言を占う存在として畏敬されるに至る経緯は、容易に想像されます。

朝一番に鳴き出す雄鶏、賢いとされる烏や鵲、雄々しい鷲鷹類、純白の鳩などが、吉祥瑞祥をもたらす霊鳥として好まれました。先に龍の項で述べた、長沙漢墓出土の帛布に描かれた太陽を支える烏、七夕伝説中の天の河銀河を渡す鵲、旧約聖書創世記・ノアの方舟条の嘴にオリーブの若葉をくわえた鳩、本邦古事記伝中神武東征の折に現れる高皇産霊尊八咫烏、中南米アステカ・インカ・マヤ神話に纏わるコンドル伝説(コンドルは皇帝の生まれ変わりなど)等等・・、鳥類信仰を有さぬ地域は世界に皆無と言って過言ではありません。
そういう基盤の上に、鳳凰という存在の成り立ちが具現化されることとなります。

鳳凰も又、先の龍に比肩して遜色なき誠に優れた霊鳥です。
古代中国五行(易経・詩経・書経・礼記・春秋)の礼記(春秋~前漢時代?)礼運篇には四大霊獣(四霊)に、麟・鳳・亀・龍、是即ち四霊と謂う、とあり、羽を得ている三百六十種の鳥類の長と定義され、龍に並ぶ瑞獣として珍重されます。三国志中の二大軍師、龐統・孔明が、共に鳳雛(ほうすう・鳳の雛)・臥竜(がりょう・伏して世に出る前の龍)と称賛された故事にも、龍・鳳の名を親しく見る事が出来ます。

一説に、鳳凰は聖徳を湛えたる君子乃至は天子降臨の際現ずるとされ、霊泉を呑み、百二十年に一度実る竹実を食み、梧桐(あおぎり)の頂に宿る、とあります。形態として、嘴は鶏、頭乃至額は燕、項は蛇、胴乃至背は亀、尾(羽?)は魚(?)で、全身五色に覆われ(白黒青赤黄・五原色=木火土金水の五元素、五行説に由来?)、声は美しき五声を発す、とあります。崑崙山より飛来し、その卵は不老不死の妙薬との由(礼記・詩経・海山経より)。

暮れの大晦日など、嘗ては炬燵を囲んで蜜柑を食べながら家族で楽しんだ日本の代表的カルタ遊びの一つ、花札を思い出しますが、その花札十二月・桐の二十点には、鶏のような鳥が描かれています。実はその鳥が鳳凰。桐に鳳凰の二十といいます。
つまり、桐の頂きには鳳凰がつきものとの道理でしょう。

鳳凰の絵を見て、これは鳳か?凰か?と質問される方がおります。物知りの方で、即ち鳳と凰の内のどちらか?と尋ねておられる訳です。つまり、鳳凰とは実は鳳即是雄、凰即是雌の意。鳳凰二羽で番を表します。
鳳を大鳳とも呼び、大鵬とよく混同されますが、大鵬はおおとりの意にて翼三千里、一飛び九万里(荘子逍遥遊篇・古代中国の一里は約400m)。鳳は身の丈凡そ、五尺~一丈(約3m。南宋・癸辛雑識)と差がありますね。然し書物によっては鵬も鳳も同じとしているものもあり、想像生物の域を出ぬ結論となっています。

友禅染の作品では、明治期の日本画家・岸竹堂下絵による桐鳳凰図掛幅(高島屋資料館蔵)がありますが、鳳凰の造形は日本国内数多の寺社仏閣その他の建築物、又神輿の飾りなど無数点在しており、その数と形は千差万別、無限です。正に一作一貌、一制作者につき一形態を有すと言えましょうか。
誠に自由自在融通無碍の表現そのものに、我国のみならず世界の天空を、今日でも素晴らしく、縦横無尽に飛翔し続けていることでしょう。

吉祥紋様全通袋帯部分・鳳凰図         白地訪問着胸部分・鳳凰図

conv0235  訪問着「鳳凰」

【有職紋様】

有職紋様とは、やはり吉祥紋、瑞兆紋の一つで、平安時代以降に公家の服飾や調度品の装飾に用いられた、様式化された紋様の総称です。織布の生地紋様に由来すると言われます。

1)青海波

古代ペルシャ発祥。
シルクロードを経て飛鳥時代に渡来。
一説に、青海波の雅楽を舞う折に、この文様を着たところからの名称とか。
源氏物語に、光源氏が雅楽の青海波を舞う場面が描かれている。
波平かに永遠に続く吉祥の意。

2)亀甲紋

古代中国発祥。
飛鳥、奈良時代に渡来。
自然の理に叶い(亀の甲羅、蜂の巣など)、亀の甲羅を焼き、吉凶を占う神の意思との意味を持ち、崩れない連続模様で、永遠の繁栄を表す瑞祥の意。

3)七宝紋

仏教の七宝である、金、銀、玻璃(水晶またはガラス)、瑠璃(金緑石またはラピスラズリ)、硨磲貝(しゃこ貝)、珊瑚、瑪瑙が、七宝名の由来だが、元々は、四方繋がりから。
※玫瑰(まいかい=はまなすの事。花から取れる香料が高価)と真珠を七宝に加える場合もあり。
円が四方に永遠に連鎖する、和(輪は和に通ず)の繋がり、円満、平穏、縁し、
の意味。
正倉院御物にこの柄があり、奈良時代には、用いられていた。
※七宝焼は、古代エジプトが発祥。

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